研修会「学ぶ保育・子育てのヒント」

令和7年9月2日(火)埼玉会館
講師:齋藤 慈子 氏(上智大学 総合人間科学部 心理学科准教授)

昨年度よりコンタクトを取り講演依頼をお願いしていた齋藤慈子先生のお話をようやく聞くことができました。この日はあいにくキャリアアップ研修などが重なり参加者は50名程でしたが子育てや保育の話以前の「進化」についての詳細な話から始まりました。

聞きなれない言葉もありましたが、遺伝子の変化の中では「退化も進化」と話され発達とは進化の中で生まれてから死ぬまでの時間軸とも話されていました。

齋藤先生曰く、狩猟採集生活から始まったヒトの適応環境。動物は産まれてから産み終えたら死を迎えるケースが多い反面、ヒトの特徴は子育てを終えてからも長く、経験を活かして次の子育てを支えるなどする「おばあさん仮説」を立てているそうです。この現象を「ソーシャルサポート」と位置付けているそうで、ヒト以外にこれに似ているのがシャチだと言われていました。シャチは群れで生活し狩りの仕方を祖母に当たるシャチが若いシャチに教えるそうです。

遺伝子的視点や進化生物学から見た子育ての観点からも、子育ては継承されていくことや胎児の環境下の中でも流産という生と死の自然淘汰もあり、産まれてからの環境が整っていない中ではどちらかに子育てを押し付けそのことで虐待が生まれるなどの現象があるとの見解を示していました。

また母親がいても友達がいないと子どもは育たない。家庭にいる母親はストレスが高く虐待は実母が多いとの説明もありました。さまざまな分野での研究をされている先生ならではの視点からのお話だったと感じました。

現代では女性の社会進出はもちろんの事ですが、育休制度も浸透し子育ての仕方も男女を問わずに協力をしながら子どもを育てていますが、生物の子育てパターンは4つあると言います。

  1. 両親共に子育てをしない。
  2. 母親のみで子育てをする。
  3. 父親のみが子育てをする。
  4. 両親ともに子育てをする。

進化生物学から見た子育てでは、哺乳類の子育てにおいて胎内で栄養を受け取り授乳されて育つことでアタッチメント(保護)や雌によるワンオペが90%となっているそうです。

ヒトの進化(霊長類)は二足歩行がスタートし進化を遂げている経緯がありますが、脳の大きさが進化しその進化は技術の進化にも繋がるそうです。また霊長類とヒトの進化に一番大きいことは「脳の大きさや真似ること」だそうです。

チンパンジーの脳の容量は400、ヒトは1400でこの差は火を使い農耕民族として進化して生きてきたヒトの最大な進化であるとのことです。ヒトは社会の力を借りながら子育てし文化の多様性の中で生き、真似ることで学ぶことを進化させることで、今の子育てに繋げている。またヒトの子育てはサルやチンパンジーとは異なり、子ども期間が長く“体験を重ね社会性を育みながら成長する”いきものであり、脳の大きさとの関係性が非常に大きいと話をされていました。

例えばサルやチンパンジーの霊長類を観察すると生まれて間もない母親は子どもをいつも抱き抱え、子どもも小さいながらに母親にしがみつき成長していく。しかしお腹がすいても泣かない、勝手に寝る、母親の目を見るなどのヒトとは異なる行動を示しながら成長するそうですが、ヒトの赤ちゃんはお腹がすけば泣き、抱っこを求める、眠くなれば泣いてアピールし母親を巻きこむ行動を示すことは進化の過程とヒトの育つ環境がとても大きく影響しているそうです。

「小さく産んで大きく育てる」の理論の通りで、育てる過程で単独で子育てをすることが困難なヒトの子育ては、誰かに手助けをして貰いながら成長することを未熟に生まれ、子ども期が長く、出産可能な期間が霊長類などから見ても短く、そのた選択し脳をさらに育てるために進化しているとのことです。また第1子と第2子などを産む期間が短いことは、年齢が異なる複数の子どもを同時に育てる環境下に置かれることで共同繁殖=アロマザリング(アロ:異なる マザリング:母親のように子どもの世話をする)への進化史の中で獲得してきたヒトの子育てと言われていました。

現代の少子化に至るまでの間には子どもの数も多く子どもが子どもの社会で育ち合い、兄弟が多く下の子どもの世話を上の子どもが当たり前のようにし、親も子育てするコミュニテイーがあり子育てる親にもソーシャルサポートがある環境下が多く、地域の人たちが自分の子どもと同様に子どもと関わってきた時代がありましたが、今では社会全体が様変わりする中で、大きく変化をしています。これも進化の一つとして位置付けてよいのでしょうか。

後半の講義のヒトが育つ環境の特徴としてお話をして頂いた中で、改めてヒトの進化と共に子どもの成長には社会の力が必要であり、その大切な時期を預かり親の子育てに関わる保育所並びに保育士の役割の重要性を知ることができた内容となりました。

個人的には後半のお話をさらにクロースアップした内容が聞けたらと感想を持ちましたが、何か一つでも保育や子育てのヒントに繋がる研修になればと願っています。
 
研修部ではさまざまな研修内容の企画を提供できればと考えておりますので、今後も皆様なのご参加をお待ちしております。